研究概要 |
本年度は,角膜上皮細胞の増殖および細胞死(apoptosis)に対する種々の成長因子の影響と,角膜実質細胞のコラーゲン分解に対する細胞内シグナル伝達阻害剤の影響を検討した。 1)種々の成長因子の角膜上皮細胞に対する作用を検討したところ,hepatocyte growth factor(HGF),insulin-like growth factors(IGF)-1,IGF-2,およびepidermal growth factor(EGF)が角膜上皮細胞の増殖を促進した。また,これらの成長因子はapoptosisのシグナルとして重要であるAktのリン酸化を誘導し,sodium nitroprusside(SNP)による角膜上皮細胞のapoptosisを阻害した。Transforming growth factors(TGF)-β1およびTGF-β2は,角膜上皮細胞の増殖を抑制したが,Aktのリン酸化やapoptosisに対しては影響を示さなかった。塩基性fibroblast growth factor(FGF),keratinocyte growth factor(KGF),nerve growth factor(NGF)は角膜上皮細胞の増殖およびapoptosisに対して何ら影響を示さなかった。 2)角膜実質細胞に炎症性サイトカインであるinterleukin(IL)-1を添加して培養するとコラーゲン分解が促進することを以前報告した。このIL-1の角膜実質細胞におけるシグナル伝達経路を検討したところ,NF-κBおよびc-junの細胞質から核への局在の変化,IκBの分解およびリン酸化c-junのリン酸化が認められたことから,転写因子であるNF-κBおよびAP-1の活性化が明らかとなった。また,角膜実質細胞にNF-κB阻害剤あるいはAP-1阻害剤を添加して培養することにより,IL-1によって誘導されるMMP-1,MMP-3の発現が蛋白およびmRNAレベルで抑制され,その結果角膜実質細胞によるコラーゲン分解も濃度依存性に抑制された。
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