研究概要 |
レンサ球菌種の分類学上のType species(代表種/分類基準種)であり,かつ咽頭部粘膜が初発感染部位と考えられるA群レンサ球菌(GAS)は,近年,劇症型A群レンサ球菌感染症(TSLS)の起因菌として注目を集めている.TSLSはGASによる重度の敗血症,DIC様の病態を特徴とし,病態の進行が急激で死亡率も高いため,有効な治療法や予防法の確立が求められている.本研究では,日本で分離された劇症型感染症を惹起するA群レンサ球菌の全ゲノム配列を決定してその構造上の比較を行った.その結果,日本で分離されたA群レンサ球菌であるSSI-1株は,ゲノムサイズが約1.9Mbとすでに米国で報告されているA群レンサ球菌の菌株とほぼ同様の大きさであった.ゲノム上にはプロファージ領域が6カ所存在した.しかし,SSI-1株ではそのゲノム構造に大きな変化が認められた.複製軸を対象に,そのゲノム構造の2/3に相当する領域が完全に入れ替わっており,大規模なリアレンジメントが起きていることが示唆された.さらにこの変化が起こっている領域を詳細に検討したところ,ゲノム上の230kbと1670kb付近のrrn領域に塩基配列が極めて保存されている相同領域が存在し,その領域で相同組替えが起きていることが予測された.さらに,複製終了点から等距離に2カ所のプロファージ領域が存在し,そのプロファージのattRから1/3の配列も極めてよく保存されている領域で染色体構造が入れ替わっていることが示唆された.このプロファーのattR領域にはA群レンサ球菌の外毒素であるスーパー抗原やヒアルロニダーゼ遺伝子が集中しており,ゲノム構造の変化によって,プロファージの存在する領域が入れ替わり新たな病原遺伝子をもったプロファージ遺伝子が構成されることが示された.
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