研究概要 |
本年度は,骨関連タンパク質であるオステオポンチンが,トロンビンにより切断された時に現れるSVVYGLRペプチドが,骨代謝に及ぼす影響を骨芽細胞を用いて接着能,増殖能,修復能および分化能について検討した.細胞はマウス骨芽細胞株MC3T3-E1株を用いた.ペプチドはアパタイトやPLCL等の生分解性足場材料にコーティングするためゼラチンに結合させて用いた.in vitro実験での細胞接着能,細胞増殖能および細胞修復能は,濃度依存的に機能することが判明した.特に,細胞増殖の初期の段階(48時間内)での増殖能力が高いことがわかった.一方,分化能については,一般的な分化能指標の一つであるアルカリフォスファターゼ(ALP)活性能にて評価した.その結果,SVVYGLRを作用させた骨芽細胞のALP活性は陰性コントロールとほぼ同じであり分化能は認められなかった. in vivo実験においては,SDラットを用いて以下の2つの実験を行った.最初の実験はSDラット脛骨に人工骨欠損を作製し,ゼラチン単体(対照)とSVVYGLR結合ゼラチンを移植し、2週・4週間後の骨再生能を評価した.術後2週・4週目の組織をヘマトキシレンエオジン染色した.その結果,対照とSVVYGLR結合ゼラチンの両者共に2週目で肉芽組織と仮骨,4週目では欠損部を十分に満たす新生骨が再生されていた.2週目においては,SVVYGLR結合ゼラチンの方が対照と比べて優良な肉芽組織が多く見られた.二つ目の実験は,SDラットの大腿四頭筋部にゼラチン単体とSVVYGLR結合ゼラチンを注入し,4週間後の異所性の骨組織形成能をX線像にて観察した.X線像において,ゼラチン単体とSVVYGLR結合ゼラチン共に硬組織と思われる像は認められなかった. 以上の結果より,SVVYGLRペプチドの骨代謝に対する影響はin vitro実験における細胞接着能、細胞増殖能および細胞修復能に対して,特に細胞増殖の初期の段階(48時間内)での細胞増殖能に影響を与えることがわかった. 担体材料(生分解性高分子)の形態制御はプラズマ処理によりナノレベルで制御でき,そのナノ構造とSVVYGLRのコンジュゲートは走査プローブ顕微鏡で確認された.担体材料の物性制御は結晶性高分子で有れば成型後の熱処理により制御でき,その分解速度も制御できた.
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