顔面・頭頸部領域の愁訴に関しては各診療科の身体医学的なアプローチでは解決し得ないのが現状である。この度、心身学的なアプローチを試みるために、ストレスと筋緊張の関係から、頭頸部、頸肩部の諸筋群の緊張によってもたらされると考えられる愁訴との関係につき検討を行った。 ストレスによって誘発された筋緊張と筋緊張の身体表現機序につき、自律神経機能の評価とストレスと頭頸部の筋緊張によってもたらされる頭頸部領域の愁訴と他身体領域への影響につき検討を行った。 自律神経機能評価には心拍変動の周波数解析を行い、口腔・顔面・頭頸部領域の愁訴との相関を検討した。厚生労働省の調査報告にあるように口腔・顔面・頭頸部領域の身体愁訴項目が多く、これら愁訴をもつ人の多くは頸肩部の筋緊張を有しおり。実験的には日常的、慢性的なストレス下に置かれたときの筋緊張が頸肩部の緊張として身体表現されることを、クレペリンテストと頸肩部筋緊張の調査やバイオフィードバック装置を用い観察し、ストレスと頸肩部の筋緊張表現があることを示唆する結果が得られた。 日常臨床では心理調査、聞き取り調査から、明らかに日常的、慢性的なストレスに曝されている人を対象に自律神経機能の検討を行った。その結果、交感神経の機能亢進と副交感神経の減弱が観察され、口腔領域に愁訴をもつ患者群と対照群の比較でも患者群には交感神経の機能亢進と副交感神経の機能減弱が観察され、口腔領域の症状も頭頸部に発症している愁訴の一症状と考えられる結果が得られた。 さらにストレスなどによって誘発される筋緊張とクレンチングによる嚥下第I相形成が、従来解明されていなかったストレスと呑気機構を解明することができ、呑気症の原因の解明に繋がった。 以上のストレスと頭頸部頸肩部の筋緊張から発症する諸症状に対する実験的研究と臨床研究から、歯科領域における心身医学的な治療アプローチの必要な知識をまとめ、心身医学の入門書を上梓することが出来た。
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