研究概要 |
平成16年度は口腔癌の細胞周期、増殖活性、浸潤、転移に関連する分子シグナルを同定し、これを制御する方法を検討した。まず、口腔癌で過剰発現しているEGFRを主たる分子標的とし、この阻害剤であるZD1839(Gefitinib, Iressa)と放射線併用治療における癌細胞への影響を検討した。口腔癌培養細胞にZD1839を添加することにより容量依存性に細胞増殖は抑制され、細胞周期はG1 arrestを示した。細胞内p27kip1は経時的に発現増加し、SCFskp2は減少した。ZD1983は接着分子への影響を与え、fibronectinの発現を抑制した。また、Integrin α3,αv,β1,β6の発現および下流シグナルであるFAKのリン酸化を抑制することにより浸潤、転移を制御し得た。ヌードマウス舌正所性移植モデルでは、移植後3週目から放射線(4Gy)、ZD1839(1uM)併用投与することにより未処理群と比較して有意に腫瘍増殖を抑制した。さらにZD1839は放射線奏功性を向上させ、そのメカニズムの一つとしてdouble strand DNA repair enzyme系であるDNA-PK complex pathwayを抑制することを解明した。 つぎに、口腔癌の浸潤、転移に関係する重要なシグナル系であるHGF/c-met系について検討した。下流シグナルを解析するため、口腔癌におけるStat-3の発現とc-metとの相関を調べた。リン酸化Stat-3は口腔癌84例中62例に発現しており、そのうち42例はc-met陽性であった(p=0.00097)こと。HGF/c-metシグナルは細胞内で転写活性化因子Stat-3を作動させていることが明らかとなり、口腔癌分子標的治療の重要な標的であることが示された。
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