NMRにおける溶媒効果は1970年代に研究されていたが、近代的NMR技法の進化に伴い、天然物の構造決定に用いられることなく、長らく忘れ去られていた。本研究では、有機化合物の絶対配置決定に有効である新モシャー法について、溶媒効果を検討した。新モシャー法においてはこれまで重クロロホルムのみが溶媒として使用できるものと考えられていた。しかし重クロロホルムは時に空気酸化により塩化水素を発生し、貴重なサンプルが分解する、水のピークがδ1.5付近に出現するため、低濃度の溶液の場合サンプルのシグナルと重なることがある、等の欠点が知られている。本研究の結果、重ベンゼン、重メタノール、重ピリジンも使用可能であることを見いだした。特に、重ベンゼンはその特異な溶媒効果によりシグナル分離が良好であり、絶対配置決定法に新たな展開をもたらすことができた。 テルペン類にはシクロプロパン環を有する化合物が多数存在する。しかし、シクロプロパン環を手がかりとする絶対配置決定法は皆無であった。本研究では、シクロプロパンを有するキラルな化合物について酸素官能基を導入することにより、絶対配置決定の手がかりを構築する研究を行った。その結果、酸化ルテニウムによりシクロプロパン環のα位メチレンを酸化してカルボニル基を導入し、この酸素官能基を手がかりとして新モシャー法により絶対配置を決定する新しい方法論を展開した。 カロテナイドなどの天然物に多く見られるアレンについて、キラルな13-双極子を付加させ、これまでX線解析以外に不可能であったキラルアレンの絶対配置決定法を開発した。
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