研究概要 |
本年度はディーゼル排気中の主要な変異原物質1,6-ジニトロピレン(1,6-DNP)が体内で示す変異原性の検討をすすめた。 1,6-DNPを変異原検出用遺伝子導入動物gpt deltaマウスの肺に気管内投与したところ、低用量(0〜0.05mg)では用量に依存して突然変異頻度が増加した。 1,6-DNPはベンゾ(a)ピレン(B(a)P)よりも強い変異原性を示し、1,6-DNPの比変異原生(単位重量当たりのMF、3.1 x 10-^4MF/mg)はB(a)Pの値の約18倍であった。gpt deltaマウスに3mg SPM/m3の条件下でディーゼル排気を6ヶ月にわたり曝露した。その結果、肺中のMFは3ヶ月まで曝露期間に依存して増加した。 突然変異発生速度(Mutation rate、細胞数・1日当たりの突然変異発生数)は2.3 x 10-^7/cell x dayと算定され、肺がん発症率の推定への適用が考えられる。 突然変異スペクトルを調べたところ、ディーゼル排気を曝露した肺中では1,6-DNPに.特徴的なG:C>A:Tの塩基置換が最も高頻度に発生した。 それに対して、B(a)Pの典型的な塩基置換であるG:C>T:Aは殆ど見られなかった。 ディーゼル排気が示す変異原性の主な原因はB(a)Pではなく、1,6-DNPなどのニトロピレン類であることが示唆される。 2次代謝酵素の発現に必要な転写因子Nrf2の欠損により、突然変異頻度がどの程度上昇するかを、gpt deltaマウスとNrf2ノックアウトマウスの交配により、gpt遺伝子が遺伝子導入されているNrf2(-/-)マウスを作成して明らかにしようとしている。従来Nrf2(-/-)マウスの繁殖効率が極めて低かったが、本年度になり、投与実験を行うに充分な数の動物が確保できるようになった。 B(a)Pの肺中への投与実験を開始している。
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