研究課題
基盤研究(A)
本研究では、運動が慢性ストレス症候群の生理機能に及ぼす影響を自律神経機能、呼吸循環系、脳機能の応答を指標として検討し、メンタルヘルス改善のための運動処方プログラムの開発を行うための基礎的資料を得ることを目的とした。呼吸循環系の研究では、中高齢者に対するコンバインドトレーニングすなわち有酸素性及び無酸素性トレーニングの実施がメンタルストレス、体力、頸動脈循環、生活習慣病の危険因子に及ぼす影響を明らかにし、高齢者のストレス、Quality of Life(QOL)、体力を維持・強化する運動の方法を検討することを目的とした。その結果、1)うつ尺度は習慣的な運動の実施により低下する傾向にあったがその変化は有意ではなかった。2)脚の筋力の指標である脚伸展パワーが約20%増加した。3)エネルギー代謝に関連する脚の血流量が約35%増加した。4)脳の血流量を示す頚動脈血流量が有意に約20%増加した。以上の結果から、複雑な運動模倣タスク、等尺性筋力トレーニング、水中での動的運動で構成される6ヶ月間のコンバインドトレーニングによって、筋力、脚血流、脳血流が増加することが示唆された。脳の生理的変化を検討した研究の結果、運動時には安静時に比べ、運動野、補足運動野、小脳、大脳基底核に有意な脳活動の上昇が認められた。実験室内での単純な自転車運動時でも記憶や動機付け、情動に深く関与する大脳基底核に活性が認められた。また、脳活動と末梢血中の基質濃度変化に相関が認められ、基質が間接的に運動時・後に起こる情動の変化に関与する可能性が示された。橋網様体の活動と運動時の乳酸濃度との間に有意な正の相関が認められた。扁桃体の活動がFFA濃度の増加と負の相関を示したことは、運動が情動を改善する一因になる可能性を示唆している。本結果は、身体運動が慢性ストレスに対する防御に有効な対策であることを示唆している。
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