研究概要 |
いかなる社会システムにおいても,多様な価値観が共存している.こうした価値観の多様性は,共存共栄によって社会システムの潜在的な環境適用能力を確保し,より望ましい発展を遂げる重要な条件となる.しかし,一方で,深刻な対立を引き起こす"時限爆弾"でもある.例えば,現在深刻な問題を迎えている米国におけるテロ事件も,価値観の対立が生み出した悲劇と捉えることが出来よう.そして,平和と言われる我が国でも,局所的な価値の対立は近年の重要な社会問題を引き起こしている.たとえば、原子力発電所や迷惑施設などの建設に関して、従来型の行政からのトップダウンの手法では、住民の理解が得られず、計画が頓挫するケースも頻発している。また,近年の新聞紙上を賑わしている長良川河口堰の問題や長野県のダム建設の問題も,同様の問題が噴出している.これらの問題を放置しておけば、地域的な合意(あるいは合意のないこと)のみが優先され、全体の利害や価値観のバランス(mass balance)を損なうことにもなりかねない。 これらの問題に対して,社会システムにおいてどの様に合意を形成し,異なる価値観が建設的に共存共栄できるようになるのだろうか.本研究の究極的な目的は,この問いに答えることにある.研究初年度では,社会的な意思決定方法,すなわち,「決め方」と合意形成の関係に着目した実験研究を行った.実験の結果,公共的な利益を明示的に議論することを通じて得られる社会的決定は,多数決やくじ引きによる決定よりも高い手続き的に公正感と満足感を与えると共に,人々の利己的動機の強度を低下させることが確認された.
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