研究概要 |
世界の地震被害による犠牲者の多くは,耐震性の低い組積造構造物の崩壊によって生じている.本研究の目的は,耐震性の低い既存の組積造構造物を,それぞれの地域が持つ技術と材料を用いて,しかも安く耐震化できる手法を開発することである.この目標を達成するために,研究初年度である本年度は,以下の3つの検討を行った.すなわち,a)世界各地の組積造構造物の建設工法やタイプの比較調査,b)組積造解析用の応用要素違法(AEM)の改良に関する研究とその精度の評価,c)補強されていない組積壁構造の供試体モデルとシンプルな補強工法を施した組積壁構造供試体モデルを用いた破壊実験の3つである.c)を実施した目的は,b)で開発したAEMの精度確認と最終的に提案する効果的な補強工法を検討するための準備であるが,これを当初予定したように振動台を用いて行うことは断念した.理由は,組積造壁の破壊挙動が余りに脆性的であるために,特に非補強供試体モデルでその傾向が著しく,試験機への供試体の設置すらも難しいような状況であったためである.そこで,静的な水平荷重を載荷しながら,供試体全体の変位-応力関係を求めることと,クラックの進展に関する調査分析を行った.そして,これらの実験から得られた情報を用いて,補強効果を確認するとともに,組積造の破壊解析用に改良したAEMの適用性についての検討した. 得られた実験結果からは,提案予定の耐震補強が,経済的で簡単であるにもかかわらず,耐震性の向上に大きく寄与すること,また本研究で提案した改良型AEMが,非補強・補強のいずれのケースにおいても,組積構造物の破壊挙動を高い精度で解析可能であることを示すとことができた.
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