研究概要 |
平成15年度は、細胞内に硝酸態窒素を高濃度に蓄積するイオウ酸化細菌(NA-SOB)が、沿岸海域の富栄養化の進行に与えている影響を定量的に評価するために、以下の研究を行った。 1.NA-SOBの生息状況の時空間的動態の解明とそれを調節している環境要因の解析 NA-SOBのbiomass(filament width, filament length, cell width, cell length)を測定する手法を確立し、東京湾におけるNA-SOBのbiomassの時空間的動態の調査を開始した。デンマーク オルボー大学のPer Halkjaer Nielsen博士等と協力して、東京湾のNA-SOBのclone libraryを作成し、種組成が季節的に変動していることを明らかにした。 「現場設置型水-堆積物界面濃度プロファイル測定装置」を用いて水-堆積物界面近傍の環境条件(酸素・硫化物・pH)を測定し、NA-SOBの生息状況の時空間的動態を調節している環境要因の解析を開姶した。また、NA-SOBの細胞内に蓄積されているNO_3-Nのpool sizeを、減圧化学発光式NOx計を用いて、single filament単位で定量する装置を作製した。 2.NA-SOBが沿岸生態系の窒素循環に与える影響の把握 「現場設置型水-堆積物間フラックス測定装置」を開発し、水-堆積物間の酸素・硫化物・溶存態窒素のフラックスの測定を開始した。この測定結果を、NA-SOBの生息状況の時空間的動態と対比することにより、NA-SOBが沿岸生態系の窒素循環に与える影響を定量的に評価する予定である。 3.NA-SOBの窒素代謝メカニズムの解明 デンマーク国立環境研究所のPeter Bondo Christensen博士と協力して、NA-SOBの培養実験系を構築し、水-堆積物間の酸素・硫化物・溶存態窒素のフラックス、水-堆積物界面における酸素・硫化物・pHの鉛直プロファイル、堆積物中における細胞内硝酸態窒素濃度の鉛直プロファイル、脱窒活性(isotope pairing)及びDNRA活性(15N法)、NA-SOBのsingle filament中の細胞内硝酸態窒素濃度の解析、及び硫酸還元活性(35S法)を測定した。NA-SOBを接種しない実験系(対照)と比較することにより、NA-SOBが硫化物を酸化してsulfide free zoneを形成することを明らかにし、堆積物表層の物質循環に対してNA-SOBが極めて大きな影響を与えていることを明らかにした。また、ドイツ ハノーバー大学のHeide Scbulz博士と協力して、gradient cultureを用いて、東京湾堆積物表層に生息しているNA-SOBの単離・培養に成功した。単利したNA-SOBを用いて、NA-SOBの窒素代謝メカニズムの直接的解明を試みる予定である。
|