東京湾を対象として、沿岸域の富栄養化と細胞内に硝酸態窒素を高濃度に蓄積するイオウ酸化細菌(NA-SOB)との関係を定量的に評価することを目的として、以下の項目について研究を行った。1.NA-SOBの生息状況の時空間的動態の解明、2.NA-SOBの時空間的動態を調節している環境要因の解析、3.NA-SOBの窒素代謝メカニズムの解明、4.NA-SOBが沿岸生態系の窒素循環に与える影響の把握、5.NA-SOBを組み込んだ堆積物表層窒素循環過程の数理モデル化。NA-SOBの生息状況の時空間的動態の解明のために、NA-SOBのbiomassのpopulationごとの測定方法、clonelibraryの作成とFISH analysis用のprobeの設計及び定量PCRによるbiomassの測定方法、NA-SOBのsingle filament中のintracellular-NO_3濃度の測定方法等の確立を行った。次に、NA-SOB poulationの時空間的動態を調節している環境要因の解析のために、微小電極を用いて現場において水-堆積物界面近傍の微細環境条件を測定する手法を確立した。さらに、NA-SOBが沿岸生態系の窒素循環に与える影響の把握のために、現場において水-堆積物間のフラックスを測定する手法を確立した。以上の手法を用いて現場調査を行い、NA-SOBの生息状況の時空間的動態とそれを調節している環境要因、及びNA-SOBが沿岸生態系の窒素循環に与える影響を解明した。NA-SOBの窒素代謝メカニズムについては、NA-SOBの培養実験系を確立し、^<15>Nを用いて解析を行い、intracellular-NO3の約80%はNH_4^+に還元されていることを明らかにした。NA-SOBを組み込んだ堆積物表層窒素循環過程の数理モデル化は、窒素代謝過程を記述するBiogeochemical moduleと、生物としてのNA-SOBの動態を記述するBiological moduleより構成される数理モデルを開発した。このモデルでは、個々のNA-SOBは周囲の環境条件に反応して自律的に移動する粒子として記述した。開発したモデルを用いて、東京湾において堆積物からの窒素溶出負荷が増大し脱窒能力が低下している原因にNA-SOBが深く関わっていることを定量的に明らかにした。
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