照射精子受精卵において見られるS期チェックポイントについて、p21欠失マウス受精卵を用いて検討し、これが存在することを明らかにした。ATM欠損マウス卵ではこれは見られなかった。この現象に関わるp53タンパクの機能ドメインを明かにするため、各種のリン酸化部位に変異を導入したp53タンパクを大腸菌で作らせて、これを微小注入でp53-/-照射精子受精卵に導入してその効果を解析した。その結果、転写活性化ドメインにはこの抑制機能が無いこと、DNA結合部位にこの機能が見られること、が明らかになった。 受精卵を試験管として用いる解析の長所は多くあるが、同時に技術的に困難な点が短所である。このため、培養細胞で同様にp53依存性Sチェックポイントが存在するか否かを検討した。p53+/+マウス繊維芽細胞とp53-/-、ATM-/-、NBS1-/-など各種のマウス繊維芽細胞について解析した結果、p53依存性Sチェックポイントが、2Gy以下の低線量放射線照射でのみ見られること、NBS1が高線量域で機能していること、ATMがその両方に関わっていること、が明かになった。照射培養細胞についてDNA損傷部位に集積することで知られているH2AXとリン酸化p53の核内の局在を調べたところ、両者は一致せず、リン酸化p53は損傷部位以外にあることが明かになった。p53がSチェックポイントに機能することから、これとDNA合成との関係を調べる目的で、複製点に局在するPCNAとの関係を調べた。野生型の細胞においては照射後にPCNAはフォーカスを形成し、同時にDNA合成速度が低下する。一方p53-/-細胞ではこのフォーカスが見られないのみか、PCNAが核に存在しなくなる。これにともなってDNA合成速度は低下せず、またPCNAの染色がない細胞でもBrdUrdの取込がみとめられる。以上から、p53はATMの下流で機能し、PCNAの安定性を増すことでDNA合成を抑制する、という機構が明らかになった。
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