研究概要 |
炭素数が60以上の長鎖脂肪酸を有する,結核菌の細胞表層糖脂質TDMは,免疫活性化に基づく抗腫瘍活性を有しており,大阪大学山村一門を中心にこれまでに非常に多くの研究が行われてきたが,高い毒性の故に遂に実用化されることはなかった.最近,本研究者らは,鎖長が短いジフテリア菌由来の糖脂質TDCMの,二つの不斉中心に関する全ジアステレオマー(RR体,R3体、SR体,及びSS体)を不斉合成し,天然物がRR体であることを証明すると共に,非天然物である33体が,天然TDMと同等以上の強力な制がん作用,及びがん転移阻害作用を示す一方で,極めて毒性が低いことを明らかにした。すなわち,脂肪酸の鎖長と,2,3位の立体化学とが,生物活性に劇的な影響を及ぼすことを明らかにしたわけで,TDCMの全立体異性体の合成手法を,SS体に絞った選択的大量合成法に発展させ,鎖長を様々に変化させた類縁体を多数合成すれば,初めての免役活性化を基盤とする,全く新しいタイプの制がん剤の開発が視野に入ってきたと言い切れる.繰り返しになるが,現在までの実験データで特筆すべきは,抗腫瘍活性と毒性の差が大きく,SS体TDCMにはほとんど毒性が無いという事実である.
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