研究概要 |
炭素数が60以上の長鎖脂肪酸を有する,結核菌の細胞表層糖脂質TDMは,免疫活性化に基づく抗腫瘍活性を有しており,大阪大学山村一門を中心にこれまでに非常に多くの研究が行われてきたが,高い毒性の故に遂に実用化されることはなかった.最近,本研究者らは,鎖長が短いジフテリア菌由来の糖脂質TDCMの,二つの不斉中心に関する全ジアステレオマー(RR体,RS体,SR体,及びSS体)を不斉合成し,天然物がRR体であることを証明すると共に,非天然物であるSS体が,天然TDMと同等以上の強力な制がん作用,及びがん転移阻害作用を示す一方で,極めて毒性が低いことを明らかにした.この結果をもとに,この徹底した誘導体合成と,活性評価を行い,これらの化合物が低分子化合物では初めてのIL-6増強活性物質であることを突き止め,in vitroのアッセイ系の確立にも成功し,特許の申請に漕ぎつけ,前例のない免疫活性化に基づく制がん剤の開発を明確に視野に捕らえた.一方,本研究は生理活性物質の合成によって制がん剤の開発を目指すと共に,新しい合成手段の開拓に力を注いで来た.1983年に当教室が開発して,ごく一部で西沢試薬と呼ばれている水銀トリフラートが,2002年になって末端アセチレの水和反応を強力に触媒することが明らかになり,その反応機構の解明と,あらたな水銀トリフラート触媒反応の開発に全力を投入し,多くの研究成果を上げることが出来た.さらにステロイド生合成のC環形成の問題,酵素は如何にしてMarkovnikovの壁を越えるかに挑み,対アニオンによってカチオンの立体配座が制御される事実を立証して懸案を解決した.
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