研究概要 |
H^+-ATP合成酵素は呼吸に基づく生体エネルギー生産系の最後に位置する重要なエネルギー変換タンパク質である。本研究では、われわれが開発してきた新奇なNMR手法を用いることにより、この酵素の回転触媒機構を原子の分解能で明らかにすることを目指している。本年度はまず、(1)区分安定同位体標識F_1βサブユニットを用いて巨大タンパク質骨格NMRシグナルの高分解能測定と帰属に取り組んだ。好熱菌βサブユニットの遺伝子をアミノ酸配列で(1〜390、391〜473)のように2つに分けて、インテインとともに別々のプラスミドに入れ、別々の大腸菌で発現させることにより区分標識されたβサブユニットを作製した。この際、^2H,^<13>C,^<15>Nの標識を行った。これを用いて、TROSY法による^1H-^<15>N相関2次元スペクトルおよびさまざまな3次元スペクトルを測定することにより、ポリペプチド主査シグナルの帰属を行った。次に、βサブユニット主鎖の帰属されたシグナル用いて、Mg-ADP、Mg-ATPなどのリガンドの結合がβにどのような構造変化を引き起こすかを全アミノ酸残基の情報を基に解析した。その結果、チロシンやヒスチジンに注目して解析を行ったときと同じように、リガンド結合によりβサブユニットはオープン型からクローズ型への構造変換をしているという結論に達した。(2)膜内在性ドメインF_0の固体高分解能NMRによる構造解析に関しては、サブユニットbおよびサブユニットcの大量発現法を確立した。そこで、サブユニットcを大量調製して膜に再構成し、その構造を調べている。その際、本補助金で購入した固体NMRプローブを用いている。
|