本研究の目的は、微量の神経成長因子やガイダンスキューの分布に応じて、成長円錐がその運動速度や、運動方向の制御をおこなう仕組みを明らかにすることである。この目的のために、ニワトリ胚背根節神経細胞の成長円錐を実験材料として、蛍光色素Cy3によって標識されたNGF(Cy3 NGF)が、成長円錐膜上の受容体と結合する様子を、蛍光顕微鏡を用いて観察した。培養溶液からNGFを除くと、成長円錐の前進運動は停止し、活発な前進運動をおこなう成長円錐にみられるラッフル膜も消失した。ここに1nMのCy3 NGFを投与すると、投与から数分でラッフル膜が形成され、成長円錐の前進運動が再開された。運動を再開した成長円錐膜上には多数のCy3 NGFが結合しているが、その分子のふるまいには2種類あることが明らかとなった。ひとつは運動方向に偏りのない、2次元拡散運動で、もうひとつは成長円錐の進行方向と逆の方向に向かう、一方向性の運動である。Cy3 NGFの投与直後には、受容体に結合したCy3 NGFのほとんどが2次元拡散運動をおこなっているが、投与後10分では、それらの多くが一方向性の運動によって成長円錐基部に集積され、集合体を形成していることが観察された。Cy3 NGF分子ひとつひとつの軌跡を追跡した結果、受容体と結合したNGFは、初めに2次元拡散運動をおこなった後に、一方向性運動に移行して、成長円錐と神経軸索との結合部に集められ、ここで細胞内に取り込まれることが示唆された。また、NGFと結合した受容体の2次元拡散運動は、受容体のそれとしては非常に速いことが明らかとなった(拡散係数は上皮成長因子受容体の約10倍)。
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