セリン-スレオニンキナーゼ型レセプターの細胞生物学的作用の研究

2003 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 14208087
• 研究機関: 東京大学
• 研究代表者: 宮園 浩平 東京大学, 大学院・医学系研究科, 教授 (90209908)
• キーワード: TGF-β / 血管新生 / ES細胞 / BMP / 骨芽細胞 / シグナル伝達 / 受容体 / 細胞分化

研究概要

1)マウスのES細胞はFlk-1陽性の血管前駆細胞に分化したあと、VEGFの作用の有無により、血管内皮細胞や血管平滑筋細胞に分化する。血管内皮細胞と平滑筋細胞が共存する条件では潜在型TGF-βが効率良く活性化されることが知られており、ES細胞の分化系においても潜在型TGF-βが活性化されている可能性がある。そこでこの系においてTGF-βレセプターキナーゼの抑制剤であるSB-431542を添加したところ、血管内皮細胞の増殖とシート形成が著明に促進されることが明らかとなった。また血管内皮細胞はSB-431542添加により分化した敷石状の形態を取ることが確認された。そこで、種々の血管内皮細胞マーカーの発現を検索したところ、タイトジャンクションの形成に関わるclaudin-5の産生がSB-431542によって著明に上昇し、細胞と細胞の境界に集積している像が観察された。この結果は内因性に産生されたTGF-βが血管内皮細胞の増殖や分化を抑制していること、TGF-βが作用するとclaudin-5の発現が低下し、血管内皮細胞のタイトジャンクションの形成が抑制されることを示唆するものであると考えられた。
2)TGF-βは骨基質に豊富に含まれるが、その骨芽細胞分化に与える影響は促進と抑制の相反する報告が混在し、正確にはよく分かっていない。我々は、マウス間葉系前駆細胞C2C12とヒト間葉系幹細胞をBMP4で骨芽細胞へ分化誘導する系において、TGF-βシグナルが骨芽細胞分化にどのような影響を与えるかをSB-431542を用いて検討した。その結果、TGF-βは骨芽細胞に対して分化初期と成熟期で異なる作用を示すことを見いだした。この結果は、骨芽細胞の異なる分化段階でTGF-βシグナルを制御することを工夫すれば、BMPシグナルを増強する可能性を示唆し、骨・軟骨再生医療に応用できると考えられた。

研究成果

• [文献書誌] Murakami, G., et al.: "Inhibition of BMP signaling by Smurf1 and inhibitory Smads"Molecular Biology of the Cell. 14・7. 2809-2817 (2003)
• [文献書誌] Yoshida, Y., et al.: "Tob proteins enhance inhibitory Smad-receptor interactions to repress BMP signaling"Mechanisms of Development. 120・5. 639-637 (2003)
• [文献書誌] Matsuyama, S. et al.: "SB-431542 and Gleevec inhibit TGF-β-induced proliferation of human osteosacroma cells"Cancer Research. 63・22. 7791-7798 (2003)
• [文献書誌] Watabe, T. et al.: "TGF-β receptor kinase inhibitor enhances growth and integrity of embryonic stem cell-derived endothelial cells"Journal of Cell Biology. 163・6. 1303-1311 (2003)
• [文献書誌] Koinuma, D. et al.: "Arkadia amplifies TGF-β superfamily signalling through degradation of Smad7"EMBO Journal. 22・24. 6458-6470 (2003)
• [文献書誌] Maeda, S. et al.: "Endogenous TGF-β signaling suppresses maturation of osteoblastic mesenchymal cells"EMBO Journal. 23・4. 552-563 (2004)