研究概要 |
グルタミン酸は、ほ乳類の中枢神経系において記憶・学習などの脳高次機能に重要な役割を果たす神経伝達物質としての作用だけでなく、神経系の発生・分化にも関与するシグナル分子としての作用を持っていると考えられている。しかし、その詳細は不明な点が多い。我々は、細胞外グルタミン酸濃度調節にとって重要な役割を果たす2種類のグリア型グルタミン酸トランスポーター欠損マウス(GLT1,GLAST)を作成した。GLT1欠損マウス、GLAST欠損マウスには、脳の形態異常は観察されなかった。しかし、これら2つの欠損マウスを掛け合わせグリア型グルタミン酸トランスポーターを全く持たないdouble knockout mouse(DKマウス)を作成したところ、DKマウスは胎生17日頃に死亡し、その中枢神経系には嗅球の僧帽細胞の消失・海馬錐体細胞の層形成不全・大脳皮質の層形成不全・小脳の小葉形成不全など様々な形態異常が観察された。今年度は、DKマウス大脳皮質の層形成不全の機序を解析した。その結果、胎生12日(E12)に生まれた神経細胞の移動障害、E15以降の神経幹細胞の分裂障害、subplate neuronの消失による大脳皮質-視床間結合の消失が大脳皮質形成異常の原因であることがわかった。グリア細胞は、細胞外グルタミン酸濃度を制御することにより、神経幹細胞の分裂、神経細胞の移動、神経細胞の分化(軸作の伸長)を制御し、大脳皮質の形成にとって重要な役割を果たしている。
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