研究概要 |
我々は、大脳皮質領野間で発現する遺伝子を同定し、その機能を解明することにより、霊長類に於ける大脳皮質の形成と進化機構の解明を行っている。従来、Differential Display法を用いて、マカカ属の5領野(前頭葉、運動野、前視覚野、一次視覚野)間での発現が顕著に異なるものを分離し、視覚野特異的に発現するocc1遺伝子を分離し報告してきた。本年度、小松等は連合野特異的に発現する遺伝子Rbp(Retinol-binding protein)を分離し、In situ hybridizationによる詳細な解析の結果、以下の特徴を明らかにした。 1)一次感覚野で少なく、高次感覚野と高次連合野で多い。 2)一次感覚野で発現量が多いことが知られているParvalbuminやocc1発現と、一次感覚野に於ける発現の対比性を示す。 3)大脳皮質視覚野に於いては、一次視覚野では2層表層に発現するのみであるが、腹側視覚野へ移行するに従って2層から3層深部へとその発現が増加し、TE野では4層を除く全層で発現が見られる。 4)大脳皮質のRbp陽性細胞は、主に興奮性細胞である。 5)大脳皮質以外では、海馬、線状体、扁桃体にRbpの強い発現がみられた。 6)RBPの発現は、生後直後では2次視覚野から連合野に亘る大脳皮質の広い領域に於いて2、3層のみに見られ、成熟個体でみられる連合野の特異的発現は、主に、生後形成されると考えられる。 こうしたRbp遺伝子の発現の特徴は、これが霊長類の連合野特異的に発現する遺伝子の最初の報告であるのみならず、Rbpがレチノールを細胞内に運搬することにより、細胞内のレチノイド代謝を制御し、その結果、連合野の機能に何らかの積極的役割を演じる可能性を示唆している(Komatsu et al.,Cereb Cortex,2005)。
|