研究課題
本年度は研究会を一回開催するとともに、研究分担者はそれぞれ精力的に海外調査を行った。そこで得られた知見を限られたスペースで要約するのはもとより困難であるが、あえて述べれば、予防外交の成功のためには、狭義の武力紛争予防に限定するのでなく、将来にわたり紛争の原因となりうるような当該社会におけるエスニック対立・社会経済的対立等の構造的諸問題を平和的に処理するための民主的枠組みを構築することの重要性である。これらをより具体的に述べれば次の通りとなる。まず武力紛争に伴う問題が課題となっている地域においては、憎悪が再び衝突に向かわないようにするための枠組みが必要となる。真相究明委員会、戦争刑事裁判所、人権救済委員会などの設置が、憎悪・復讐の悪循環が再び始まるのを防ぐ上で重要な役割を演じるであろう。また軍人の社会復帰を助けるさまざまな就業を支援する措置をとり、社会に広く出回っている武器を回収するとともに、暴力による社会的紛争の処理がなされないようにするために警察・司法機構の整備を進めることが課題となる。さらに長期の武力紛争に伴う土地所有関係の複雑な諸問題を解決するための枠組みが必要となる。次に武力紛争直後の問題の解決が問題となっていない地域においては、一般的な民主化・ガバナンス支援が重要となる。そこでは、大統領制・議院内閣制か、多数制か比例代表制、連邦制を採用するか否かといったマクロ面での政治的設計が課題となる。さらに広範な市民運動を形成し、独立したマスメディアの育成など市民社会の形成が求められる。こうした民主主義を支える諸側面が強化されてはじめて、狭義のガバナンス支援(行政機構強化など)が意味をもつものとなる。(了)
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