研究課題
基盤研究(A)
最終年度の本年度は、ヒマラヤ山脈を取りまく多様な文化社会生態空間を把握するために、初年度の予備調査、第二年度・三年度の本調査による成果を基に、これまでに調査できなかった地域を集中的に調査した。チベット・モンゴル乾燥高原高原班では、中国内モンゴル自治区・中国新彊ウイグル自治区を調査した。牧畜はアルタイ山脈を利用した移牧を牧畜民が現在もなお行っており、トルコ系牧畜民とモンゴル系牧畜民がそれぞれのシステムで利用していた。この民族集団による土地利用法の重層性、つまり、民族集団による牧畜のための住み分けを行っていることが把握された。乳文化は北方乳文化圏の特徴を示しており、環ヒマラヤが形成する冷涼性という生態環境の上に、中国北方域の乳文化、および、牧畜が発達していることが明らかとなった。ヒマラヤ高山班は、インドのウッタル・カンド地方で調査を実施した。ネパール系住民の移動・ディアスポラ社会の生い立ち、ディアスポラ社会のネパールとの関係、ディアスポラ社会のショックへの対応、村内地域住民の組織を含む一帯の生態環境と資源利用などについて視察および聞き取り調査を行い、ディアスポラ社会を形成するネパール系人々の社会と生活について検討した。中央アジア・西アジア乾燥沙漠班では、中央アジアのウズベキスタンを調査した。ウズベキスタンは、かつてソ連邦の壮大な計画経済下で、アムダリア川の水源を利用した綿花栽培に特化した農業生産を行っていた。生態環境に負担をかける農業体系であっため、現在では塩類集積による耕作地放棄、アラル海の消滅の事態が発生している。地域農村の衰退が未だ続く状況ではあるが、脱ロシア化の動きや地域再生のためのグリーンツーリズムなど、農業再生に向けた農民の努力が見受けられた。南アジア大河川流域班は、インドのアルナチャル・プラデシュ州で調査を行った。アルナチャル・プラデシュ州はイギリス統治の方針を引き継ぎ、保護地区としてインド人についても厳しい出入域管理を実施している。この結果、森林をはじめ生態資源の持続的利用が見られた。一方、ブラフモプトラ川氾濫原が中央を東西に流れるアッサム州では、自然堤防上に茶プランテーションが広がっていた。茶園労働者向けに安定的に安価な米を供給する目的で茶園周辺の氾濫原は水田化されていた。鉄道による遠隔地からの労働者の流入と官僚の居住地及び商業センターとしてのヒル・ステーションの成長により人口が急速に増加した。こうして複雑なエスニシティの構成がこの地域の特色を示していた。茶プランテーションを引き金とする変容を非農業部門等の変化と関連させて文献収集を行った。
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