研究概要 |
1.インドネシア,タイなどで着生植物の進化について現地調査した。その結果,これまで着生植物とされてきた種類に,全生活史を通じて樹上で過ごす真正着生植物と,生活史の初期は地生生活するが後に着生に移り,茎が枯死して地中と繋がらない植物(着生性半着生と呼称)がいることが明らかになった.さらに,着生性半着生植物は,終生地中と繋がる地生性半着生植物とも区別された. 2.シノブ科と近縁シダの分子系統解析を行い,狭義のシノブ科はウラボシ科と単系統をなし,さらにその基部にOleandra属などの半着生植物が姉妹群となった.これより,着生植物の両科は地生植物から着生性半着生植物を経て進化したことが示唆された. 3.根茎上の鱗片を形態観察したところ,着生植物,半着生植物の鱗片は一般的に有柄で盾状,一方,地生植物の鱗片は無柄で基部付着型であり,着生性と鱗片構造に相関があることが確かめられた.また,同じ盾状鱗片でも柄が根茎陥没部にめり込んでいるタイプと,平板な根茎表面についているタイプがあることがわかった. 4.鱗片の盾状構造の形成を確かめるために,いくつかの種について発生を比較観察した.その結果,発生途中までは二次元的に扁平な基部付着鱗片と同じ発生を示すが,基部近くの細胞から盾状後部が生じるために有柄・盾状構造になることがわかった.これより,盾状鱗片は基部付着鱗片から派生したと推定された. 5.盾状鱗片のはたらきを明らかにするために,保水・吸水の生理的な特徴について予備的な実験を行った.根茎を密に被う盾状鱗片は鱗片間のすき間に水分を溜める能力があり,その一部は鱗片柄を通って根茎内部に吸水される可能性が示唆され,鱗片が根の役割を分担しているのかもしれないと推定された.
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