ケードゥプ・ゲンク・ペルサンの主著『トントゥン・チェンモ(千薬大論・深遠なる空性の真実を明らかにする論書、幸いなる者の開眼)』の後半部分(ラサ版106a-235a)に依りながら、帰謬論証派は言説としても自相による成立を認めないというツォンカパの基本的主張より派生する諸問題を、先行する議論も含めて研究した。結果は白館戒雲・藤仲孝司『ツォンカパ中観哲学の研究IV』(文英堂京都)として発表するため校正中である。 1、声聞・独覚にも法無我の理解があるとされることに関して、インド以来の解釈の概要、ツォンカパの特に『中観意趣善明』の解釈を確認した。ケードゥプがそれに従いながら、それを『現観荘厳論』、『宝性論』、『入菩提行論』など般若、如来蔵、菩提行の重要な有力な論書においても追求し、涅槃、二障とその断の解釈について総合的な記述を試みている点を、検討した。『現観荘厳論』に関しては自立論証派の解釈が有力であるため、サキャ派のロントンによるツォンカパ批判とそれに対するケードゥプの反論を確認した。ケードゥプが『現観荘厳論』にも帰謬派の立場を追及したのに対して、ゲルク派でもそれは必ずしも受容されなかった点をも検証した。平成14年夏にはネパール、インドのサキャ派、ゲルク派の僧院、研究者を訪ねて、文献調査を行うとともに、伝統的評価について情報交換を行った。 2、無自性空の論証における自立論証批判と帰謬論証派の主張の在り方については、チベットの先行する主張とツォンカパを承けたケードゥプの主張を確認した。後のゲルク派の諸学者の判断についても検討した。 3、アーラヤ識や自己認識の拒絶、三世の独特な設定、外的対象の設定、二締、仏智の在り方など、おもに唯識派の教義批判としてツォンカパが明らかにした点が、典拠を含めて詳説されているので、仏教思想史における意義を含めて検討した。
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