ツォンカパの高弟ケードゥプ・デレクペルサンの顕教・中道哲学における主著であり、ツォンカパの『Drangnges未了義了義の弁別』に対する最重要な註釈の一つ『stong thun chen mo千葉大論』より、後半の中観帰謬派の部分を全訳し、詳しい訳註をつけて公刊した。帰謬派の根本主義-二諦論において「言説としても自相による成立を認めない」-と、それから派生する諸問題について、インドの経論、チベットの議論に言及しながら議論がなされる。1)小乗のアラカンにも法無我の証悟があること、2)自立論証の否定、3)二我を否定する論理そのもの、4)唯識派の諸主張の否定と帰謬派の設定方法、5)二諦と仏智といった項目から、これらの詳細と相互の密接な連関が明らかになり、帰謬派の学説が、単に哲学的主張や他学説への批判に留まらず、小乗を含めた大乗仏教の道の実践において、精密で堅固な基礎を与えるものとして大きな役割を果たしていることが明らかになった。 18世紀ロンドルラマの『量評釈など因明所出の名目』も全訳、研究した。これは仏道実践において広く論理的思考を重視するゲルク派の教学の柱、ダルマキールティの主著など因明学全体の簡潔で明快な網要書である。認識論・論理学が単に学理として留まるのではなく、広く業果や空性、仏の救済性まで深い確信を得るために大きな役割を果たしていることが明らかになった。タルマリンチェンやダライラマ1世の註釈を翻訳・研究するための基礎として利用することを考えている。
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