ツォンカパ(1357-1419)の中道思想に関しては、すでにその高弟ケードゥプ・ゲーレクペルサンによる注釈書を通じて研究したが、本年度はその中道哲学を理論面から基礎づける論理学と実践面から基礎づける菩提道次第という二つの側面から研究した。 菩提道次第に関しては、ツォンカパの主著『菩提道次第大論Lam rim chen mo』より全体の三分の一に当たる基礎から小士、中士の道次第までと、『菩提道次第小論Lam rim chung ba』全体を、和訳研究した。その中で、インド大乗仏教の教学が、11世紀以降、アティーシャに続くカダム派の祖師たちによりいかに受容され継承されたのかということ、すなわち、チベット大蔵経所収の多くの経論のなかでも「カダムの六法」と通称される諸典籍と、アティーシャの『道灯論』などの典籍、その弟子ドムトンや特に孫弟子ポトワたちの法語を集めた『青冊子Be'u bum sngon po』や『同註釈』、トッルンパ著『教次第大論bsTan rim chen mo』と対比して、その発展の過程を検討した。ツォンカパの著作態度は、素材としてはそれら典籍におおく依存しながら、それらに明確で分かりやすい構成を与えていくという点で、大きな特徴を持っていることが明らかになった。 論理学に関しては、ツォンカパを初めとするゲルク派の教学は、インドの仏教論理学者ダルマキールティの主著『量評釈』の研究を中心としている。典籍としてはツォンカパの高弟タルマリンチェンの注釈書が中心となる。先に18世紀のゲルク派の学者ロンドルラマが、同書の内容を簡潔にまとめた著作を和訳研究したが、本年度は『量評釈』は特異な構成になっているので、上記のケードゥプがその構成を、典拠を含めて議論したものを、和訳研究した。
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