1)今年度はヨーロッパ先進諸国およびアメリカ合衆国におけるカルト問題の現状、ナショナリズムの台頭に関連した宗教の影響、宗教と政治の関係の新しいあり方についての動向を調査するため、フランスとイタリア、米国アトランタとニューヨークを訪問して調査・情報資料の収集を行った。7月に訪問した仏尹両国においては、パリとフィレンツェでサイエントロジー教団施設を見聞したほか、トリノにある新宗教研究所(CESNUR)を訪問してイントロヴィーニュ所長たちと面談し、情報交換とともに今後の共同研究についても検討した。また、同市で行われた国際宗教社会学会(SISR)第27回大会に参加し、中野・粟津太が日本における関連研究の動向について報告するとともに、参加研究者と情報・意見の交換を行った。今回の大会では、ヨーロッパ先進諸国におけるイスラム教徒の世代を越えた定着、東欧諸国・ロシアでの伝統宗教の復活と若い世代の宗教離れや新宗教への関心、宗教と暴力・ナショナリズムとの関係など、21世紀の宗教と世界秩序の関係に関する重要テーマが議論され、知見と研究協力者を広めるうえで極めて有意義であった。 2)11月には米国アトランタ市のエモリー大学を訪れて、9.11以降のアメリカにおける宗教的原理主義の影響について資料調査並びに宗教学者との論議を行った。また同市で開催されたアメリカ宗教学会(AAR)に日本宗教学会の代表の一人として参加し、現代の宗教研究の方法と課題について報告・討論を行った。アメリカにおいても、エリアーデ以後の方法論的再検討が急速に進展していることが明らかになり、グローバル化する世界と宗教との関係について新たな観点からの研究の必要性について類似の課題を抱えていることが理解できた。帰途、ニューヨークのグランド・ゼロを訪れ、復旧の現状を視察するとともに、周辺住民から若干の聞き書きを行い、心理的衝撃の大きさを把握した。 3)中国専門家である浜勝彦教授その他によって近年の中国政府の宗教政策に関する資料収集と翻訳、検討を行った。その結果、法輪功事件以来、中国政府は政府非公認の、また外来の諸少数派宗教をカルト(中国では「邪教」と呼称)として厳しく取り締まっており、2000年11月に北京の中国人民大学で「邪教問題国際シンポジム」が開催された。その概要と報告者および「邪教一覧表」入手し、資料として翻訳した。中国政府は、法輪功などカルト(邪教)に厳しい態度で臨んで折り、フランス政府のカルト対策の責任者(当時)アラン・ヴィヴィアンなどとも連携して対策を検討していたことなどが明らかとなった。 4)年度末に仮称「グローバル化と宗教研究会」を立ち上げ、今後の共同研究の基盤とした。
|