研究課題
本研究は,平安・鎌倉時代の彫刻作品の表面を飾る彩色に関する総合的な調査研究である。平成17年度は、東京国立博物館所蔵の彫刻作品と、関連する絵画作品の調査を集中的に実施した。調査にあたっては、彫刻史的データの採集と詳細な写真撮影を徹底して彫刻史の基礎資料を充実させたことはいうまでもないが、これに加え、可能なかぎり蛍光X線分析装置による調査を実施して、彩色顔料にふくまれる元素など科学的データの蓄積をはかった。中でも東京国立博物館の阿弥陀如来立像(C-508)については重要な発見があった。本像は、これまで肉身・着衣とも金泥塗りで、着衣部分には截金文様をほどこしたものと考えられてきたが、蛍光X線分析によれば着衣には金があるとは認められなかった。このことは、金泥塗りという技法の成立にかかわる重要な問題を提起する可能性もある。絵画史研究者、染織史研究者との共同調査に際して討議を行なうことによって、彫刻における彩色表現について、今後検討すべき各種の問題をうかびあがらせることもできた。絵画作品は、東京国立博物館所蔵国宝十六羅漢図など代表的な作品について、彫刻作品と同様の科学的方法をふくむ調査を行ない、彫刻作品との比較資料をえることにつとめた。本年度は最終年度であり報告書の作成をした。報告書は、比較的密度の高いデータ収集がなされた東京国立博物館所蔵作品を中心に、作品調書・蛍光X線分析データと多数の図版を掲載して、基礎資料集として利用価値の高いものとなった。