研究概要 |
行動遺伝学的研究は,活動性と情動性,特に臆病さないし不安傾向がかなり密接に関連していることを示してきた.今年度は,オープンフィールド活動性(以下OFA)について選択交配された高・低活動系マウスにおいて,抗不安薬によるオープンフィールド行動(以下OFB)の変化に関する検討および他の近交系や選択交配の基礎集団であったICR/JCL系とのOFBの比較を行なった.高・低活動系マウスに関する比較研究は,高活動系が低情動,低活動系が高情動として特微づけられることを示唆している. 抗不安薬によるOFBの変化:高・低活動系およびICR系において,ベンゾジアゼピン系抗不安薬であるジアゼパムとセロトニン系抗不安薬であるブスピロンの効果を調べた.その結果,ブスピロンは単回投与でも1週間にわたる反復投与でも高用量において鎮静効果を示すのみであった.それに対して,ジアゼパムは高活動系およびICRにおいてOFAを増加させるとともに,5分間の測定の初頭において伸展姿勢・すくみを減少させ,移動・立ち上がりを増加させる傾向を示した.しかし,その至適用量は高活動系の方が3倍ほど高かった.一方,低活動系では高用量において鎮静効果が見られただけであった.以上の結果は,選択基準にはなかったベンゾジアゼピン系抗不安薬への感受性にも変化が生じており,高・低活動系の行動特性との関連を示唆した. 0FBの系統比較:高・低活動系を中心に,5系統の近交系マウス(C57BL/6,BALB/c, DBA/2,C3H/He, CBA/Ca)とICR系のOFBを主成分分析を援用して比較した.高活動系はICR系とよく似たOFBを示し,近交系では高活動・低情動で知られるC57BLとの類縁性があった.一方,低活動系はDBAと類縁性を示したが,OFAの水準はかなり低く,その点は低活動・高情動のBALBやC3Hに近かった.
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