ワーキングメモリは、目標指向的に、必要な情報を一時的に活性化状態で保持することにより、課題遂行をおこなうことを可能とするための機能である。なかでも、中央実行系(central executive)は、注意の制御系であり、課題の遂行を進めるための制御システムである。中央実行系は音韻ループなどのサブシステムの調整をおこない、課題遂行への重要な役割を受け持つところである。 本研究では特にワーキングメモリの個人差を問題としている。言語性のワーキングメモリ容量の個人差は、文の読みや理解などの言語情報処理にさまざまに影響をおよぼしていることがわかってきている。昨年度の研究から、読みの理解がワーキングメモリ容量の個人差と関連している知見を得た。本年度の研究では、fMRIの測定を重点におき、ワーキングメモリ容量の個人差の神経基盤について検証した。今年度の研究では、ワーキングメモリ容量の個人差を測定するスパンタスクを実験に導入した。 その結果、言語性ワーキングメモリ容量を引き出しているのは、主に中央実行系の制御機構にあることが示唆された。そこで、個人差を生みだす神経基盤を調べた。そこから、中央実行系の制御は、前頭葉、特に前頭前野と前部帯状回を中心に機能していることがわかった。前頭前野と前部帯状回の相互作用が影響し、2つの領域が連携することにより、ワーキングメモリの効率性を高め、課題遂行を促進することがわかった。両領域の連携により必要な情報を一時的に活性化状態で保持しつつ、同時に課題遂行をおこなうことを可能としているものと考えられた。両領域の連携がスムースかどうかが、課題遂行の遂行レベルを左右し、ワーキングメモリ容量の個人差を導き出していることがわかった。
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