研究課題
本研究は、人間および高等霊長類の一部に特有とされる「文化を作る能力」の成立基盤について、適応的な視点から検討を加えようとするものである。近年の霊長類学は、近縁の霊長類においてこれまで「文化的行動」と見なされていた行動パターンの多くが、必ずしもヒトの文化的行動とは連続的につながらない可能性を明らかにしている。例えば、広く知られている、ニホンザルの「芋洗い文化」やチンパンジーの道具使用についても、そうした技術自体が文化的に伝達されるのではなく、他者に刺激された個体が、試行錯誤により技術を個人的に学習しているにすぎないという見方がある。こうした観察は、模倣や社会的学習といった「文化」を支える基礎的な能力が近縁種に広く通有のものではなく、人間(あるいは高等霊長類の一部)に限定された、特殊な認知能力である可能性を強く示唆している。本研究は、こうした、認知能力間の適応的な相互依存関係・ダイナミズムに注目する。具体的には、(a)進化ゲーム・進化シミュレーションと呼ばれる数理解析手法を用いて、模倣や社会的学習を含むさまざまな「文化的認知特性」間の適応的な相互依存関係を理論的に定式化し、(b)そこから導かれた命題を心理学実験により組織的に検証する。平成16年度は、14.15年度に開発した理論モデルと、15年度に実施した心理学実験を基に、それらをさらに修正・拡張した理論的・実験的検討を行った。3年次にわたる一連の検討から、文化能力の進化について学習コストの負担に関するただ乗り問題が重要となり、母集団内にproducer-scrounger均衡と呼ばれる、多型的な進化的安定状態が成立することが確認された。
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