研究概要 |
本年度は、抗ストレス資源に関与する心理的および個人要因についての2つの基礎実験を行った。研究1では、心的抗ストレス要因としての対処悲観性が不安および心理的well-beingに及ぼす効果を明らかにすることを目的とした。被験者:日本語版対処的悲観性尺度J-DPQ(細越・小玉,2003)で選抜した大学生対処的悲観傾向(DP)者32名と方略的楽観傾向(SO)者31名。実験課題:暗算課題。測度:(1)特性不安、(2)主観的感情状態(小川他,2000)、(3)課題遂行への主観的期待度・課題成績満足度、(4)心拍反応。結果:(1)DP者は悲観的思考により不安を統制し、課題成績を高めた。(2)DPとSOとの間に心拍の差はなかった。以上のことから、悲観的対処がストレス状況での適応的認知方略となっている可能性が示唆された。研究2では、肯定感情が怒りに誘発された心臓系反応の鎮静・安定化に有効かを検討した。被験者:大学院生・大学生37名。実験条件:各被験者は視聴する感情喚起映像の内容により、「非活動的快感情(MP)条件12名」、「活動的快感情(AP)条件12名」、「中立(N)条件13名」に配置。測度:(1)心拍数・血圧(拡張期・収縮期)、(2)主観的感情得点が測定された。実験課題および手続き:(1)PFスタディの怒り喚起図版。(2)怒り感情喚起直後に上記3条件の映像刺激を提示、心拍変化を測定。結果:(1)AP条件下では映像視聴中、収縮期血圧で他条件より速やかな回復を示した。(2)拡張期血圧ではAP・NAP条件で中立条件より速やかな回復を得た。(3)交感・副交感神経活動の平衡ではAP条件が顕著であった。(4)NAP条件では交感神経活動の鎮静化がより速やかであった。(5)主観的感情評定では、N条件よりAP・NAP条件が有意に高い快感情得点を示した。以上の結果から、肯定的感情にはストレスによる心臓血管系反応の変動・不安定化を復元する効果が示唆された。
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