研究課題
日本中世・近世社会に生きた民衆に、どのような割合でまたどのような程度で識字力が存在したのかという、これまでほとんど明らかにされてこなかった問題に取り組むために、昨年から起請文・宗門人別帳等の資料に記されている花押・略押に注目し、そこに識字力に裏打ちされた自署サイン能力を見出そうとしてきた。これまでの資料蒐集の成果から、識字状況を推測していくための基礎資料として、手習塾・寺子屋で作成された入門帳、さらに村々で行われた選挙の際に投じられた入札などについても、今後の分析・検討対象としてアプローチする必要性が、識字研究会において確認された。また、地域を限定した調査・研究の可能性についても探ることとなり、来年度にはこの点について具体化を進めていきたい。本年度の識字研究会は、筑紫女学園大学文学部(10月18日)、日本女子大学家政学部(11月9日)、京都市内(2月29日)で行われた。資料調査については昨年に引き続き・本年度も京都府での資料調査を行ったが、その他に九州地方、および滋賀県にも調査範囲を拡げた。京都では京都府立総合資料館において東寺百合文書のなかの花押・略押資料を蒐集した。九州では九州大学文学部所蔵の南蛮起請文とその関連資料の検討を進めるとともに、佐賀県相知町立図書館を訪問し、同館所蔵の峯家文書をはじめとする近世民衆資料の調査を行った。今後の展開可能性を予感させる手がかりを得た調査結果であった。滋賀県立図書館所蔵資料の調査では、今堀日吉神社文書、葛川明王院文書などの検討を進めた結果、来年度あらためて本格的な調査を行うこととなった。
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