5年に一度ドイツのカッセルで開催される現代美術の国際展覧会ドクメンタに行き資料収集をした。あわせてヨーロッパの新進アーティストたちの国際展覧会マニフェスタ、メディア・アートの中心的な研究所であるZKMなどで資料収集をおこなった。また、ベルリン、ロンドン、パリで現代美術に関する資料の収集をおこなった。ドクメンタは開催以来はじめてヨーロッパではなく第三世界からナイジェリア出身のオクウィ・エンヴェゾーがディレクターとして選ばれた。このため、美術作品と文化の関係、現代美術の世界における欧米と欧米以外の地域の関係を考察するうえで重要であった。全体的な傾向として、民族紛争、植民地主義、マイノリティに対する抑圧、ジェンダー、暴力など世界が現在直面している問題をテーマとした作品が多かった。映像作品が多くなっているのも特徴である。しかし、そのなかには問題意識が先行していて、アート作品として昇華されているのかどうか疑問を感じるものも少なくなかった。また、扱うテーマによっては、作品と対峙するにはみる側がその社会・文化的背景を知らなければならないため、作品のコンテクスト性がより高まってしまうことが明白になった。このようなことから、今回のドクメンタは良い意味でも悪い意味でも現代美術の模索する過度期の様相を提示していた。本年度は現代美術の動向に関して基礎資料を収集するとともに、ヒスパニック系のアートに関しての文献研究をおこなった。日本でもラテンアメリカのアーティストの展覧会がいくつか開催されたので資料収集をおこなった。また、現在出版予定の『ペルーを知るための60章(仮題)』(明石書店)のなかで、国際的に評価が高まっているペルー出身の写真家マルティン・チャンビについて執筆した。
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