研究課題/領域番号 |
14310172
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
曽田 三郎 広島大学, 大学院・文学研究科, 教授 (40106779)
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研究分担者 |
勝部 眞人 広島大学, 大学院・文学研究科, 教授 (10136012)
水羽 信男 広島大学, 総合科学部, 助教授 (50229712)
笹川 裕史 埼玉大学, 教養学部, 教授 (10196149)
金子 肇 下関市立大学, 経済学部, 教授 (70194917)
丸田 孝志 広島女学院大学, 生活科学部, 助教授 (70299288)
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キーワード | 近代日中関係 / 日本人政治顧問 / 日本人産業技術者 / 憲政 / 服部宇之吉 / 有賀長雄 |
研究概要 |
清末以来、近代中国では多数の日本人が中央・地方の軍事組織、行政機関、教育機関、産業組織等に雇用されていた。これらの日本人は、中国の政治や経済に大きな影響を与えていた。しかし一部の著名な人物を除いては、これまでその経歴や雇用先での活動等は明らかにされてこなかった。この研究の目的は、第一にこれらの日本人政治顧問や産業技術者の個人データを発掘し、収集することである。第二の目的は、このデータの中から近代日中関係の歴史上において重要な位置を占めたと考えられる人物を抽出し、事例研究を行うことである。これまでの近代日中関係史研究は、国家間対立に単純化されすぎていた。そのために日本と中国の関係をめぐる多様な可能性や選択肢は軽視されがちであった。近代の日中関係をめぐる近年の新しい研究動向は、これまで強調されてきた敵対・対立の面のみならず、「提携」・「相互依存」・「競存」といった局面の存在も明らかにしつつある。 中国の諸機関で雇用されていた日本人は、もちろん日本の国家意思から自由であったわけではないが、個人の意思や活動を国家のそれによって代替させることはできない。事例研究の対象として注目した人物の一人は、有賀長雄である。清末において、彼は清朝が日本に派遣した憲政視察団に対して、明治憲政に関する講義を行った。また中華民国が成立すると、彼は法制局の顧問として招聘され、憲法の制定に関与した。彼が提示した憲法案の特徴の一つは立法府に対して行政府が優位に位置づけられていた点にあるが、もう一つの重要な特徴は地方制度に関する規定を盛り込んだことである。中国における憲法制定の作業は、清末の憲法大綱の発表から始まったが、第一次大戦後から作成された憲法案は、いずれも地方制度に関する規定を含み、中央・地方両政府の権限区分を行っていた。有賀の憲法案は、こうした第一次大戦後の中国の憲法案のさきがけをなすものであった。 中国で雇用されていた日本人に関しては、明治・大正期の事例がいくらかは明らかにされているが、個別の事例であって、データの量的集積という面ではきわめて不十分である。この研究では、今後の近代日中関係史研究の発展に寄与するために、中国で雇用されていた日本人に関するデータの量的集積を行った。また服部宇之吉、有賀長雄等の人物を事例として抽出し、多様な可能性を秘めた近代日中関係の位相を示した。
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