研究概要 |
プロジェクト2年目の今年度は,国民意識形成過程の多様性に注目すべく,6人の研究協力者にお願いして合同研究会を3回(4月26日,6月14日,12月6日),9月にはUniversity of North Carolina at Chapel Hill(UNC-CH)のInstitute of African American Research(IAAR)他との共催でシンポジウムを開催した。まず,合同研究会では,「脱植民地化」「脱帝国」という視点から沖縄の復帰運動形成期に注目した戸邉秀明氏の研究,チェコ・ポーランド系移民組織の声が第一次世界大戦期下で民族意識覚醒の強調からアメリカ合衆国に対する愛国的な論調へと変化した過程に注目した中野耕太郎氏の研究,メキシコ革命において近代性の定着を最重視したプロテスタント知識人に注目する大久保教宏氏の研究、W・E・B・デュボイスの男性性と人種意識に注目した兼子歩氏の研究,19世紀前半の上流層の国民意識形成と消費文化に関する金井光太朗氏の研究,人種の差異を否定することにより国民化への道筋をつけたという19世紀半ばの黒人エリートに注目した大森一輝氏の研究を中心に議論。UNC-CHでのシンポジウムは,代表者(樋口)・分担者(中條,村田),研究協力者(阿部,佐藤,戸邉,Howard)(阿部と佐藤は昨年度の分担者)の計7人が報告者として参加し,UNC-CHの研究者7人がコメントする形式で行なわれた。また,貴堂(分担者)はアメリカ史研究者夏期セミナー(名古屋)のシンポジウムで,19世紀後半の中国人移民問題に関して,村田(分担者)は日本アメリカ学会年次大会(神戸)の分科会シンポジウムにおいてラティノ/チカノ研究の研究史に関して報告した。こうした研究会の積み重ねによって,国民意識形成過程に関する研究で考慮されなければならない実に様々な日常的状況と要因が明らかにされた。なお,今年度9月のシンポジウム(UNC-CH)の成果(3月刊行予定)を踏まえ,海外研究者との交流を次年度に継続する体制を整えた。
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