研究課題
本年度は(1)中世前期(13〜14世紀代)の十三湊遺跡の実態、(2)中世十三湊廃絶後から近世十三湊成立に至るまでの経過、(3)近世十三湊の港町の実態を明らかにするために市浦村教育委員会の協力を得て発掘調査を実施した。調査区は、中世前期のみならず、近世期においても弘前藩の港町支配の中心的な場所であったと推定される第54次調査区の隣接地に設定した。発掘調査の結果、土壙墓1基、溝跡5条、柱穴跡などが検出され、予想通り前浜に隣接した中世前期の生活跡の一端が明らかになった。また、調査区中央部から西側に向かって礫層が伸び、中世前期の前浜を形成していることも明らかとなった。また、今回の調査によって、中世の遺物が140点ほど出土した。珠洲II期・III期のものと考えられる擂鉢・壺・甕、常滑・越前産の瓷器系陶器(鉢・甕)、龍泉窯系青磁碗、滑石製石鍋、鉄製品などが出土している。これらの出土遺物はすべて鎌倉時代のものであり、十三湊遺跡が最盛期を迎える南北朝〜室町期(14世紀後半〜15世紀前半)の遺物は全く含まれていない。このことは、本調査区の地点が中世前期に使用されていたことを示しており、十三湊成立期に湊として機能していた可能性が高い場所である推察された。今回の調査では大規模な護岸施設が確認されていないことから,中世前期においては自然の浜辺を利用して船着場としていたものと推察される。さらに、中世十三湊が廃絶したとされる15世紀中葉以降から近世初期(16世紀末)の間にかけて堆積したとされる厚さ1〜1.2m程の砂丘層(第V層)を確認し、近世の十三湊の成立過程を追うことが可能となった。この砂丘層の堆積状況を確認できたことは地質学的に重要なものであり、砂丘層の形成過程を地質学・物理化学的観点から検討することが可能となった。