本研究では、近年、イスラエルにおいて日本隊(聖書考古学調査団)が発掘調査を継続しているエン・ゲブ遺跡について、1990年〜2003年までの調査記録の整理を行い、調査・研究を深めるとともに、周辺地域の事例との比較検討をおこなって基礎資料を整備することで、エン・ゲヴ遺跡を地域の歴史の中に位置づけて、その意義を明らかにすることを軸にして研究を進めている。 今年度は、昨年度に引き続いて、調査記録、遺構図面や写真、遺物台帳など、調査記録の基本的な整理を進行させた。とくに、本研究で取り組んでいる調査記録のデジタル化については、昨年度から進めている写真のほか、今年度は、図面のデジタル化を重点的な課題として、遺構図面についてベクタートレース作業を推し進めた。 7月末から8月にかけては、桑原(研究代表者)、置田(研究分担者)がイスラエルに渡航して、エン・ゲヴ遺跡の第7次発掘調査に参画し、エン・ゲヴ遺跡のアクロポリス部において、列柱式建物の基本構造を解明することができたほか、城壁コーナーに設けられたタワーの平面プランを明らかにすることができた。また、土器や石製品など、エン・ゲヴ遺跡の出土資料を図化、撮影する作業も合わせて行った。さらに、ダン、ベト・サイダ、ハツォール、テル・ケイサンなど、エン・ゲヴ遺跡周辺に位置する関連遺跡の踏査を実施したほか、トルコにおいて日本隊が発掘調査を継続しているカマン・カレ・ヒュユクの視察を行い、エン・ゲヴと平行する時代のアナトリアにおける都市遺跡の状況を実地に観察することができた。調査を指揮する大村幸弘氏(中近東文化センター)から発掘調査や出土資料の研究体制など、さまざまな教示を受けたことも本研究の課題にとっては非常に有益であった。 秋期から冬期にかけては、上記したエン・ゲヴ遺跡の調査記録の整理作業並びにデジタル化に重点的に取り組み、その成果を、12月20日、東京八王子市にて、「エン・ゲヴ遺跡第7次発掘調査報告」として、発表した。また、日本隊が1960年代に調査を行ったテル・ゼロール遺跡の都市構造の解明をはかるために、同遺跡の調査資料を再整理する作業に着手し、写真のデータベース化などの取り組みを進めた。 春期には、3月6日、本研究の研究協力者である山内紀嗣氏(天理参考館)が、本研究の成果を受けて、東京で開催された西アジア発掘調査報告会にて報告を行い、3月末には、桑原ほか研究協力者5名がイスラエルに再渡航を行い、エン・ゲヴ遺跡の出土資料を図化、撮影する作業に従事し、テル・アビヴ大学名誉教授モシェ・コハヴィ氏とともに、テル・レヘシュの踏査を実施した。
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