内田(研究代表者)と沈(研究分担者)は、上海図書館、ロンドン大学SOAS図書館、大英図書館、ウェルカム図書館、フランス国立図書館、北京国家図書館などで、西洋人による中国語研究に関する資料の調査・発掘に努めた。 調査対象となったものに、『小孩月報』『廣報』『遐禰貫珍』『衍緒草堂筆記』『中西通書』などがある。いずれも中国語学史、翻訳史においてきわめて重要な位置を占めている資料である。 それらの資料の中で、特にSOAS所蔵の『遐禰貫珍』(1853-56、来華宣教師による中国語定期刊行物)について、研究論文、書誌的考査、総語彙索引からなる研究書を完成させた。 また幾つかのこれまでに不明とされた文献を突き止めた。例えば、上海で布教活動をしたJ.エディキンズは『上海方言文法』の中で、畢華珍及びその著書『衍緒草堂筆記』に言及し、これを高く評価している。しかしこれまでに本書は、所在不明とされていた。今回の調査ではオーストラリア国立図書館所蔵の『論文淺説』は、他ではなく『衍緒草堂筆記』であることが判明した。同図書館のコレクションには、ロンドン伝道会、上海支部の図書が収められていたからである。本書は中国文法学説史上極めて重要な資料となるのみならず、近代のヨーロッパ人の文法記述にも大きな影響を与えたことは注目されてよいであろう。詳細については、内田は研究論文を準備中である。 来華宣教師による東西対照カレンダ『中西通書』についても1851年〜1860年分の整理を行った。同誌は、数多くの西洋新知識が含まれていた書物として有名である。 なお、申請者らによる『或問』での一連の書誌学的な記述は、西洋人の中国語研究の史実を明らかにしようとする地道な努力である。
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