本年度は、ブロッホの生地ルートヴィヒスハーフェン市のブロッホ文庫で資料調査に従事し、それに基づいて入手可能な資料を購入、それに平行して、エルンスト・ブロッホが活躍した19世紀後半から20世紀前半の時代を背景に彼の美学に対する哲学者や思想家の影響についての研究に着手した。その結果、ブロッホの美学観の基盤にはアリストテレスなどのギリシア哲学に始まる物活論的一元論と生命体の実感との一体感があり、実はそれがカントの3批判に分裂して表現されるドイツ哲学の物質観への彼の批判を生み出していることが確認された。この認識はマインツ大学との国際シンポジウムで「Das Naturbild in der japanischen und deutschen Literatur」(「日独の文学における自然像」)と題して発表され共感と理解を得た。一方、ブロッホの美学に見られる象徴の強調はこの物質観に基づく歴史的成就の美学的表象であると考えると納得できるが、逆に、その点に、「表現主義論争」に典型的なブロッホの美学の特色とそのアポリアが現れていると想定される。この仮説は、北京学会での基調講演として「Plotzlichkeit oder Kontinuitat?」(「突然性か連続性か?」)と題して現在活躍中の理論家カール・ハインツ・ボーラーと対比して発表され、一定の評価を得た。この2発表は2003年中に論集として公表される予定である。これらの研究の結果、ソ連やルカーチらの過去志向的理論への批判として有効であったブロッホの美学は、その点から、19世紀前半のロマン主義美学および20世紀後半の突然性の主張との関係から改めて見直されるべきであることが判明した。美学におけるユートピア性と美的成就の関係は論証可能なのか?本年度の研究は来年度の課題を明示していると思われる。
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