研究課題
本年度は本科研最後の年度にあたり、過去3年間の成果を基に本研究を報告書の形にまとめることを研究活動の主眼とした。ブロッホの美学は、カントの3批判に象徴される物質観の分裂を批判し、その統一を目指すが、逆に、その中にこそ彼の美学の、ひいてはヨーロッパ美学の、アポリアの根がある。こうした前提に立ってみると、現在カール・ハインツ・ボーラーの美学がもっとも鋭い批判を展開しているが、アドルノの否定美学を継承する彼にしても、否定性がなぜたんなる現実肯定性(Affirmativitat)に陥ることなく芸術作品というある種の肯定性に結実しうるか、という根本的難問は解決し得ない。ブロッホに即して言えば、青年期の「衝動理論」がなぜ「主体の未意識と客体の未存在の相関性」の発見によって客観化されうるかという疑問である。報告は、この難問をめぐり、初期作品"Spuren"から「表現主義論争」を通じて『希望の原理』"Das Prinzip Hoffnung"を対象にその経緯をたどることになる。本研究をまとめるために日本独文学会とDAADの共催になるシンポジウム"Endzeit-Zeitende. Diskurs fiber das Ende"にヒントを求めたが、アドルノによるだけではこのアポリアは解決し得ないことはすでに明らかになっており、本研究の難問解決の示唆は得られなかった。ブロッホは、それを、象徴概念によって否定的に乗り越えうると考える。しかし、それにもかかわらず、問題はそのまま存続すると結論する方が正確であると思われる。
すべて 2006 2005
すべて 雑誌論文 (2件)
日本大学文理学部ドイツ文学科研究紀要「ドイツ文学論集」 27号(予定)
ページ: 112-125
Befremdendes Lachen (Hrsg. von H-P. Bayerdorfer u. S. Scholz-Cionca. iudicium verlag, Munchen)(単行本論文集)
ページ: 132(381)-162(381)