研究概要 |
本研究は,東アジアの諸言語を対象に,意味と文法形式および文法カテゴリーの関係を考察し,カテゴリー化と文法化に見られる多様性を明らかにするとともに,その中に存在する普遍性を究明することを目的とする。本研究は上記6名に国立国語研究所の井上優,東京外国語大学の星泉を加え,計8名の分担者によって行われた。本研究では毎年2回ずつ研究会を開催し,分担者各自の研究テーマに関する発表と意見交換を行い,その研究成果を国内外の学会・シンポジウムや紀要などに発表した。最終年度の平成17年には,日本言語学会大会で「東アジア諸語の文法化および文法カテゴリーに関する対照研究-ヴォイスと空間表現を中心に-」というワークショップを行い,分担者が発表と相互討論を行った。 本研究では,カテゴリー化と文法化に関する現象のうち,主としてヴォイスと空間表現に関わる現象を取り上げた。前者の研究としては,木村が中国語におけるヴォイスの構造化,カテゴリー化の様相を追究したほか,木村・楊が中国語の方言の授与動詞が受動文動作者マーカーへと文法化するプロセスを方言類型論的な観点から追究した。また,鷲尾は結果表現と非対格性をめぐる諸問題,受動表現の類型とその起源などについて,オランダ語,フランス語,上代・中古日本語,朝鮮語,モンゴル語などを中心に,大規模な多言語比較を行った。さらに,井上は日・中・朝の受動文について,「AFFECT」「BECOME」などの概念を用いつつその類型化を試み,生越は朝鮮語の受動に関わる諸表現の使用条件について考察した。 空間表現に関わるカテゴリー化,文法化については,ラマールが中国語およびその方言,ベトナム語,タイ語,日本語などを対象にモダリティと空間移動に関わる文法範疇の形成と文法化のメカニズムに関する研究を進めた。村上は,方向動詞の陳述副詞化や,接続助詞化に見られるベトナム語の文法化の特徴について日本語や中国語と対照しつつ考察した。このほか,星は名詞化接辞の文法化に着目し,動詞+名詞化接辞に判断動詞等が後接した際に生じる意味変化について記述した。
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