研究課題
基盤研究(B)
本研究の最大の目的は、従来、ややもすると「哲・史・文」に分化しがちなギリシャ・ローマ研究を統合すること、より具体的にいえば、社会史・文化史の成果ないし方法を意識しつつ、あらたな哲学史・文学史の可能性を探ることにある。今年度は最終年度であるので、従来の成果をふまえつつもあらためて基本に立ち返り、文学/哲学と歴史との接点を問うべきシンポジウムを7月16日に開催した。会場参加者をも含めて当該研究課題にたずさわる多くの研究者にとっていつも問題になってくることは、双方向批判ともいうべきふたつの論点である。一方では「文学(哲学)作品」を歴史資料として取り扱うことの必要性と危険性であり、もう一方には「文学(哲学)作品」を理解するために時代背景の把握、いいかえれば時代思潮という相対化の視点の導入の有効性の限界である。前者は歴史学、とりわけ文化史・社会史からすれば必須である営為であるが、文学研究者(哲学者)からすれば、ときに「勝手な読み方」の導入となる。後者は、作者といえども時代を超越しておらず時代に制約されているとする歴史学者にすればある意味で当然な見解であるが、歴史記述そのものにもバイアスがあることを認めざるをえず、となれば果てしない相対化のおそれがある。こうしたジレンマを頂点に、歴史と文学/哲学の関係のさまざまな問題点を、あくまで個別的事例に則しながら剔抉すべく、とりわけ若手研究者の問題意識にもとづく研究報告書を作成した。