本年度は、比較研究対象国であるアメリカ・イギリス・オランダ・ドイツ・スウェーデンの雇用システムの客観的位置づけを行うとともに、外部労働市場規制と内部労働市場規制の接合問題について、各国がどのような対処を行っているのかを分析・検討した。 具体的には、まず、内部労働市場の成立を規定する解雇規制について、ドイツ、アメリカについて最新状況のフォローアップを行った。とりわけ、ドイツでは解雇規制の規制緩和の動きがあり、次年度も引き続き同行を検討する必要がある。また、イギリス、オランダの状況についても文献研究を行った。また、スウェーデンについては、荒木が国際労働法社会保障学会欧州地域会議に出席するとともに、ストックホルム大学のEklund教授、ルンド大学のNumhauser-Henning教授らから、外部市場の流動性を高めることによって失業率を提言させてきたスウェーデンの施策と現状について聞き取り調査を行った。 解雇法制については、国内で労働基準法改正の議論が高まり、特に、不当解雇の金銭解決について法改正の建議が出されるなど予想を上回る展開があった。そこで、金銭解決については、諸外国の取り扱いを分析し、正当理由を補完する趣旨の金銭支払いによる雇用関係解消、不当解雇が認定された後の救済方法の一つとしての金銭支払いによる雇用関係解消など、いくつかの類型に分けた考察を行い、日本の金銭解決の方向についても検討を行った。日本と同様に不当解雇の原則的救済が雇用関係の存続であるドイツにおいて、解雇制限法9条による解消判決手続きが参考となったが、同時に、日本と異なる訴訟手続きを用意しているドイツの法制に留意する必要があることも明らかになった。この点はさらに次年度も検討を継続する必要性がある。 また、内部労働市場の柔軟性を補完する有期契約法制、派遣労働規制についても、国内の法改正を巡る議論(労基法改正、派遣法改正)をも視野に入れて、諸外国の法制の動向を検討した。 次年度は、解雇法制、とりわけ金銭解決のあるべき立法論を検討するとともに、増加しつつある非正規雇用労働者と正規労働者の処遇格差問題なども視野に入れて外部・内部市場の統合を目指した施策を検討することとしている。
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