本研究「高失業時代の新たな雇用政策--比較システム論による外部・内部労働市場の統合的施策--」は、異なる雇用システムおよび雇用・労働市場政策によって労働市場・失業問題に対処しているアメリカ・イギリス・ドイツ・フランスの比較システム分析を通じて、日本の外部労働市場・内部労働市場に関する統合的施策の可能性を探求した。 まず、内部労働市場から外部労働市場への労働者の排出をコントロールする解雇規制に関して、日本でも問題となった解雇の金銭解決制度を導入しているドイツの状況を検討した(第1章)。次に、外部労働市場と内部労働市場が交錯するもう一つの典型的な場面である企業の組織変動時に、労働組合ないし従業員代表がどのように関与する仕組みが設けられているのかをアメリカ、EU、ドイツ、フランス、イギリスについて横断的に比較検討した(第2章)。また、1990年代後半以来の相次ぐコーポレート・ガバナンス改革は内的コントロールに依存してきた日本型コーポレート・ガバナンスに外的コントロールを導入しようとするものであるが、これを労働法の観点から分析し、コーポレート・ガバナンス改革が雇用・労使関係にいかなるインパクトを与え、また労働法制の展開がコーポレート・ガバナンスをどのように規定するのかを分析した(第3章)。さらに、新規に労働市場に参入したりあるいは一旦失職した者が企業に就職しようとする場合、いかにして労働市場への参入を容易にするか、つまり、外部市場と内部市場をスムーズに接合するかが問題となる。この点、ドイツではデュアルシステムと呼ばれる訓練政策が採用されてきたが、同様の施策が諸外国で採用されていないかについて調査分析を行った(第4章)。以上の検討を踏まえて、最後に、日本における雇用システムの変化に対応した外部市場と内部市場の接合と雇用・労働政策上の課題について総合的検討を行った(第5章)。
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