研究課題
ラテンアメリカ、東南アジア、東アジア、アフリカ、東欧の事例を、民主主義体制の定着に関する諸理論と対照させつつ比較検討した結果、次のような諸点が明らかとなった。ただしこれらはまだ限られた事例に基づくものであり、仮説の域を脱していない。1.民主化が進んでいるように見える場合でも、異議申し立ての自由や参加の公正さという点で、重大な制限が残っている場合がある。その場合、不完全な民主主義によって権威主義時代のエリート層の利益が守られているが故に、体制が維持されていることになる。2.長期にわたる紛争と抑圧のトラウマが平和共存の学習を促し、結果として民主主義体制の定着を助けるという本研究の主要仮説は概ね支持される。ただし国や地域によって民主化につながる紛争や抑圧の程度に大きな差が出る理由としては、次のような仮説が考えられる。(1)経済利益や権力をめぐる紛争よりも、民族的・宗教的アイデンティティに関わる紛争のほうが、平和共存の学習が困難である。(2)権威主義体制の時代に支配者側の統制からある程度自由な言論や集会の場(=「自由の隙間」)があった場合のほうが、民主主義体制定着に至る過程が容易になる。それは「自由の隙間」が紛争と学習の機会を増やすからである。(3)対外的脅威が共通の敵としてある場合、妥協が進みやすい。(4)経済的に豊かな社会のほうが、紛争を続けることによって失うものが多いので、平和共存に至る学習が進みやすい。これは、「経済発展が権威主義体制から民主主義体制への移行を自動的にもたらすわけではないが、一度民主主義体制に移行した後には、経済的な豊かさが体制の維持を助ける確率が高い」というPrzeworskiらの仮説と矛盾しない。
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