研究課題
前年度に引き続き、ラテンアメリカ、東南アジア、東アジア、アフリカ、東欧における民主主義体制の定着(長期的持続)に関する諸事例を比較検討した他、外部講師を招き、インドとトルコの事例も比較対象に加えた。その結果、「長期にわたる紛争と抑圧のトラウマが平和共存の学習を促し、結果として民主主義体制の定着を助ける」という本研究の主要仮説と、国や地域によって長期的民主化につながる紛争や抑圧の程度に大きな差が出る理由に関して、前年度に得た結論に一部修正を加える必要が生じた。1.権威主義体制の時代に支配者側の統制からある程度自由な言論や集会の場(=「自由の隙間」)があった場合のほうが、民主主義体制への移行は生じにくいが、ひとたび移行がなされると、民主主義体制の定着は容易である。それは「自由の隙間」が権威主義体制側と反政府側双方に、長期にわたって非暴力的学習の機会を与えたからである。2.社会的亀裂と紛争の構造は、民主主義体制定着につながる紛争・抑圧の度合いの違いを説明する重要な要因である。民族や宗教による亀裂の場合でも、それが細分化され、どの一つの集団も他を圧倒できない場合、紛争の数は多くなるが、一つ一つの紛争から妥協に至るプロセスは比較的早く進む。逆に多数派集団が存在する場合、紛争は長く、あるいは集中的に激しくなりやすい。3.新制度論は民主主義体制の定着にも適用可能である。「決定的紛争」によって、ある程度長期的に持続する民主主義制度が成立すると、その制度の内容によっては、次の紛争が起きたとき、既存の制度が当事者の行動を制約することで、紛争が民主主義体制の枠組みを越えて高進するのを防ぐ。
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