研究概要 |
本年度は、これまでの研究代表者である松井の研究成果をまとめた『慣習と規範の経済学』(東洋経済新報社)の上梓にこぎつけたことが最大の成果である。これは、これまでしばしば経済学で置かれてきた合理性および進化論的プロセスを再検討しながら、新しい理論を打ち立てようという試みである。具体的には(i)合理性アプローチと進化論的アプローチを統合した社会ゲームの理論を詳述し、それが均衡選択の理論としても有用であることを示した。 (ii)近代経済学で考えられてきた合理性は演繹的な合理性であったため、本来車の両輪の一方であるはずの帰納的推論の話が抜け落ちていた。この部分を補完するため帰納ゲームの理論を展開し、差別や偏見といった従来は社会学の領域と考えられてきた問題にも触れた。 また海外の学会および大学でも積極的に発表を行なった。松井は、イリノイ大学、エール大学、ウィーン大学(3月末、予定)、およびゲーム理論コンファレンス(セビリア)で発表を行なった。若手の研究協力者である尾山をイリノイ大学(受け入れ教官:In-Koo Cho教授)に約3ヶ月間派遣し、研究についての調査・資料収集にあたらせた。 一方清水は、"Real Indeterminacy of Stationary Equilibria in Matching Models with Media of Exchange"(東京大学神谷和也氏との共著)で,一般的に,貨幣のサーチモデルでは定常均衡が非決定になること,またそこにおいて,ある種の所得再分配政策が均衡の安定化をもたらすことを示した.
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