研究概要 |
八田・唐渡は、公表した論文「容積率緩和の便宜:一般均衡論的分析」(季刊 住宅土地経済,NO.50,秋季号,pp.18-25,2003)において,都市外部からの労働者の流入がない閉鎖的な都市経済を考え,容積率規制の緩和が都市の労働者の分布,賃金率およびオフィス賃料に与える効果を一般均衡論的な枠組みでシミュレーション分析し,都市全体の付加価値がどのように変化するのかを定量化した.容積率規制が実効的な地区において規制が緩和されると床面積の供給ストックが増加する.これは二つの効果を持つ.第1に,その地区の労働の限界生産性が上昇し労働需要が増加する.この結果,緩和された地区の賃金率が上昇し,その他の地区の労働者が当該地区に流入する.第2に,これがもたらす各地区における労働者数の変化は,周辺地区の労働の生産性を変え,さらに賃金率に影響を及ぼすことで労働者のさらなる地区間移動を引き起こす.最終的な均衡では、新しい賃金体系のもとで異なる労働者の分布が得られる.容積率緩和によるこのような労働力の移動と賃金率の変化を内生的に計算した上で緩和の便益である付加価値の上昇分を定量化するのが本稿の目的である.分析の結果,指定容積率が緩和された地区では,集積の経済が働くため生産性が高くなりオフィス賃料が上昇し,それ以外の地区では,集積度の低下のため軒並みオフィス賃料は低下するという結果が得られた.しかしながら,都市全体で一意に決まる賃金率は規制の緩和によって上昇するので,総合的な付加価値上昇効果は正になる.シミュレーションで指定容積率の上限を現況の2倍に設定した場合,規制が実効的な地区における緩和は,都市全体の付加価値を0.2%から0,6%の範囲で上昇させるという結論が得られた. 山鹿は、容積率緩和による特定地域の就業者の増加が、その地域への通動者数にどのような影響を与えるかを、首都圏地域の通勤パターンを考慮してシミュレーション分析を行った。そして、通勤鉄道各線の混雑による疲労費用を測定し、容積率増大による従業員の増大がどれだけの追加的な外部不経済効果をもたらしているかを分析した。また、通勤の混雑と疲労の関係の計測に用いた推定モデルを、より一般的で頑健なモデルに改善することにより、推定結果の信頼性をあげた。
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