研究概要 |
昨年度と同様,日中の企業統治制度の比較研究に適した新しい理論的枠組や分析道具の確立に向けて,研究を展開してきた。とくに,本年度は,企業の地理的集積体である「クラスター」にフォーカスをあてて,中国の企業統治制度の理解を試みた。近年クラスターは,狭いローカルな文脈への埋め込みを超えて,グローバルなスケールで新奇的な知識や技術の創造に寄与している。制度の進化や多様性を重視する比較制度分析の視点から,北京中関村,長江,珠江,そして天津経済技術開発区といった中国の4地域で進化したクラスターの比較分析を試みることによって,複数企業が取引の統治だけでなく,フェイス・トゥ・フェイス型の知識創造を促進していることを明らかにした。中国の場合,クラスターの進化経路は,政府による制度的環境のデザインの影響をうけている。しかし,民間レベルの自生的な制度進化も確認される。すなわち,われわれは,企業を超えた「慣行コミュニティ」という,共通関心と専門知識によって特徴づけられる人的ネットワークが進化を遂げることによって,企業の組織学習を超えたメカニズムが働いていることを見出した。とくに,ITやバイオの分野にかんして,中国とアメリカのシリコンバレーのあいだを,中国人の起業家やベンチャー・キャピタリストが往復し,新しいビジネス・モデル,アイデア,そして資本などの供給・移転を行いつつある。
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